〜POWER〜
序章・・・精神科病棟 no.Jエリア
「人の心に飛び込むことの何が悪いって言うの!?見ようとすらしてないじゃない、あんたなんか!黙ってて。口出さないで!だいたい・・・。」
「だからヒステリーになってるんでしょ?イライラした言葉聞いてて心地良いとでも思う?」
肩書きを背負う白衣を身に付け、二人の女はいがみ合う。
スーッと扉が開いた先には紫のパジャマで身を包んだ患者が立っていた。彼は無言で二人に近づくと、苛立っていた女医は緊張感を忘れたように振り返り、いつもの笑顔で問い掛けた。
「どうしたの?何か・・・・。」
笑顔の女医の言葉を遮るように、隣りで椅子に寄りかかっている女医はスッと左腕を伸ばした。
「トイレならあっちよ。」
「・・・ありがとうございます。」
ペコリと頭を下げ、お辞儀をし出て行く青年。それに習って軽く会釈を交わす女医と、再び腕を戻し机に向かう女医。
「病っていうはね、進行を妨げると怒るわ。彼らだって必死に生きるウィルスですもの。」
「・・・何を言いたいの?」
笑顔の引きつる様子を隠しきれないまま、机に坦々と向かう女医に問いただす。
「私達のやるべき事は決まってるわ。ビジネスとしても人間としても。・・・さっきの彼に対しても。」
ファイルを描き続ける手を止めずに、平たい口調で言う。
「ウィルスを退治して、彼ら患者を元通りに戻す事。基本じゃない。」
「アリール、基本があなたは出来てない。だから私の言葉も理解し得ない。図書室にでも行ってみたら?」
ギリッと歯を食いしばりつつ、彼女は呆れたため息を吐き、ぬくもりの無い白い壁と銀色のボタンやデスクを流し目で見つつ、去っていった。
白衣が空を切るのと同時に、シャッという扉の開閉音は2度聞こえた。
「や、レイディナ女医。今日も研究捗ってる??」
先ほどのパジャマの青年が歩み寄りデスクに手を付き、白衣の女性を覗き込む。
「・・・。」
「無視かよ、それでも医者かぁ?」
呆れたように笑う青年を女医は、しょうがないような素振りで椅子の背もたれに体重を任せクルリと見上げる。
「ここは診断室じゃないし、病室でもないわ。また今度ね、フェル。」
「フレデリックって名前さえさっきの女医は覚えててくれなかったぜ、相当毎日一生懸命なんだろうな。」
フェルがドアに目をやった時、ディナはさっと机に向かいなおしファイルの整理に再び取り掛かった。
「そうね。ついでに言うと、私も忙しかったりするんだけどな。」
青年にはカツカツとペンを進めてる女医と、彼女のメガネに屈折して映るPC画面が見えた。フェルはいかにも座りごこちの良さそうなソファにどっかりと座り込んだ。
改めて女医の様子を伺う。ディナは相変わらずペンを進めている。
「・・・聞かないんだな。あの女が聞くのも遮ってたし。」
「別に・・・。あなたが立ち入り禁止のところに居たって不思議じゃないもの。ある意味関係者じゃない?患者さん?」
「正当な意見だ。セキュリティーは?」
その問いにディナはメガネを外し淡々と答えた。
「私の知った事じゃないわ。それに・・・」
立ち上がり書類を纏めて歩き出しながらキッパリ言った。
「面倒な事に巻き込まれるのは嫌いなの。」
「・・・アリール女医と違って?」
「ええ。」
「でも、目指す物も同じ?」
「ええ。肩書きだけはね。それが欲しい訳じゃないけど、やっぱり誰かに認められると嬉しいからね。」
「・・・きっと彼女はそんな簡単に理由を言えないんだろうなぁ。」
そういうと突然青年は、ソファに彼女を押し倒した。舞い散らばったファイルが無造作に体の上を覆う。
「ディナなら俺と共鳴出来るか?治せるか?」
「さあ?」
「・・・。」
「保障は出来ないのは当たり前よ。医者と患者だって、人間同士の問題だし。ただ、私はあなたの為に出来る事は医者として何でもやろうと思ってる。」
青年は更に体制を崩し、口を彼女の耳元へ持っていく。
「・・・それって挑発?」
「いいえ。ただ単に。患者に嘘は付かない主義なの。彼女とは平行線だけど、これでも同様に信念貫いてますから。」
「信念?彼女も貫いてるのか?」
「ええ。」
指や耳を掠めるブロンドの髪から、かすかな香りが漂う。
「・・・悪いけど個人的に男のパジャマ姿に惹かれないの。」
彼女は青年を交わしカッと靴のヒールを床につけた。ファイルを纏めなおし、そして部屋を出る前に言った。
「そうそう、"関係者”には見つからないようにしなさいよ。少なくとも私が近くにいる時はねっ。」
笑顔を送る事も別になく、彼女はすんなりその場を去っていった。
白い部屋に静寂が戻った。
時計だけが刻々と刻むリズムの中にフェルは一人でいた。
もう一度扉の開閉音がなった時、本当の静寂と闇が訪れた。
明かりの無くなった白い部屋は闇の部屋へと早変わりしたのである。
INDEXへ戻る。