山田 智宏の別館


Machinの公式とStørmerの結果


投稿日: 2018/03/30 00:00 GMT

先日、関西日曜数学友の会第0回にて Machinの公式について講演しましたが、それに関してStørmerの業績について詳しく調べましたところ、 触れておきたい話がいくつかあり、先日の関西日曜数学友の会にて時間が足りずお話できなかった内容(特に 去年の343と239の記事でも触れた、不定方程式との関係)も含めて ここで触れることにします。

Machinの公式と不定方程式の関係についてはすでにtsujimotter氏が カタラン予想とマチンの公式で 触れられていますが、ここではStørmerの結果について、より詳しく述べてみたいと思います。

1895年の論文

Størmerは1895年の論文で次の定理を証明しました。

定理1

$x, y$ を整数とする。 \begin{equation}\label{eq0} \pm m\arctan\frac{1}{x}\pm n\arctan\frac{1}{y}=\frac{k\pi}{4} \end{equation} となる整数 $k$ が存在するための必要十分条件は \[1+x^2=2^e A^n, 1+y^2=2^f A^m, x\pm y\equiv 0\pmod{A}\] となる整数 $e, f\geq 0, A\geq 2$ が存在することである。

たとえばMachinの公式 \[4\arctan\frac{1}{5}-\arctan\frac{1}{239}=\frac{k\pi}{4}\] には \[1+5^2=2\times 13, 1+239^2=2\times 13^4\] が対応しているわけです。ここで後者は去年の343と239の記事 で最後に触れた不定方程式 $1+x^2=2y^4$ の解となっています。 去年の記事で触れた、この不定方程式と円周率の公式との関係がここにあります。
$1+x^2\equiv 1, 2\pmod{4}$ ですから $e, f$ は $0$ または $1$ であることがわかります。 また $x\pm y\equiv 0\pmod{A}$ という合同条件は $A$ が素数のときは $1+x^2=2^e A^m, 1+y^2=2^f A^n, m, n>0$ から従いますが、 $A$ が素数でないときは \[1+12^2=145, 1+17^2=2\times 145\] のように、 $1+x^2=2^e A^m, 1+y^2=2^f A^n$ は成り立っても、この合同条件の 成り立たない例もあります。このような例からはMachinの公式のような関係は出てきません。


したがって \[1+x^2=2^e y^n\] の形の不定方程式を考察することになりますが、 \[1+x^2=y^n, n\geq 2\] の整数解が $(x, y)=(0, \pm 1)$ しかないことは 既に M. Lebesgue が1850年に証明しています。よって \begin{equation}\label{eq1} 1+x^2=2y^n \end{equation} の形の不定方程式が問題となります。これについてStørmerは次の結果を得ました。

$n\geq 3$ が奇数のとき $\eqref{eq1}$ の整数解は $(x, y)=(\pm 1, 1)$ のみである。

一方 $n=2$ の場合、 \[1+x^2=2y^2\] は有名なPell方程式となり、この整数解は無数にあることが知られています。 残っている方程式は \begin{equation}\label{eq2} 1+x^2=2y^4 \end{equation} のみで、これについては去年の343と239の記事でも触れた通り、 解は $(x, y)=(\pm 1, \pm 1), (\pm 239, \pm 13)$ のみですが、 Størmerはこのことを証明するには至らず、これが証明されたのはかなり後のことです (実はStørmerはこれをLagrangeが証明したと主張したことがありますが、これは誤りと思われます。下記参照)。

Størmerは代わりに、次のような結果を証明しました。

$x, y$ を整数とする。 \[1+x^2=2^e A, 1+y^2=2^f A^{2^t}, x\pm y\equiv 0\pmod{A}\] となる整数 $e, f, t\geq 0, A\geq 2$ が存在するのは $(x, y)=(\pm 2, \pm 3), (\pm 2, \pm 7), (\pm 3, \pm 7), (\pm 5, \pm 239)$ の場合のみである。
これと定理1から $\eqref{eq0}$ の解は \[ \begin{split} \arctan\frac{1}{2}+\arctan\frac{1}{3} & =\frac{\pi}{4}, \\ 2\arctan\frac{1}{2}-\arctan\frac{1}{7} & =\frac{\pi}{4}, \\ 2\arctan\frac{1}{3}+\arctan\frac{1}{7} & =\frac{\pi}{4}, \\ 4\arctan\frac{1}{5}-\arctan\frac{1}{239} & =\frac{\pi}{4} \end{split} \] およびこれらの符号を反転させたもののみであることがわかります。これによって 2項のMachin型の公式はすべて求められたわけです。

1896年の論文

1896年の論文ではこれをより項数の多い式に一般化し、次の定理を証明しました。

$a_1, a_2, \ldots, a_n, b_1, b_2, \ldots, b_n$ を $0$ ではない整数とする。 \[c_1\arctan\frac{b_1}{a_1}+c_2\arctan\frac{b_2}{a_2}+\cdots +c_n\arctan\frac{b_n}{a_n}=\frac{k\pi}{4}\] となる整数 $c_1, c_2, \ldots, c_n, k$ (ただし $k\neq 0$)が存在するとき \[a_i^2+b_i^2=2^{d_i}p_1^{e_{i1}}p_2^{e_{i2}}\ldots p_s^{e_{is}} (i=1, 2, \ldots, n)\] となる整数 $d_i, e_{ij} (1\leq i\leq n, 1\leq j\leq s)$ がとれる。また、このとき 各 $i=1, 2, \ldots, n$ に対して \[c_1 e_{i1}+c_2 e_{i2}+\cdots +c_s e_{is}=0\] が成り立つ。
特に $b_i$ がすべて $1$ の場合、つまり \[c_1\arctan\frac{1}{x_1}+c_2\arctan\frac{1}{x_2}+\cdots +c_n\arctan\frac{1}{x_n}=\frac{k\pi}{4}\] のような公式には \begin{equation}\label{eq3} x_i^2+1=p_1^{e_{i1}}p_2^{e_{i2}}\ldots p_s^{e_{is}} (i=1, 2, \ldots, n) \end{equation} が対応します。 たとえば \[1+2^2=5, 1+27^2=2\times 5\times 73, 1+1068^2=5^6\times 73\] に対応して \[5\arctan\frac{1}{2}+\arctan\frac{1}{27}+\arctan\frac{1}{1068}=\frac{3}{4}\pi\] が得られます。

1897年の論文

そこで $\eqref{eq3}$ のような、2次多項式の素因数分解を考えることになります。 1897年の論文は2次多項式の値の素因数について、様々な結果を含んでいますが、 核心となるのは次の結果です。

$(x, y)$ が方程式 \[x^2-Dy^2=\pm 1\] の正の整数解で、 $y$ の素因数がすべて $D$ をも割り切るとき、 $(x, y)$ はこの方程式の最小の正の整数解である。

これを使って \[x^2+1=p_1^{e_1}p_2^{e_2}\ldots p_s^{e_s}\] の形の方程式の解の個数が評価できます。 まず各 $e_i$ は \[e_i=m_i+2n_i,\] ただし

  • $e_i=0$ のとき $m_i=0$,
  • $e_i$ が奇数のとき $m_i=1$,
  • $e_i>0$ かつ $e_i$ が偶数のとき $m_i=2$
の形に一意的にあらわせます。
このようにあらわすと、 \[x^2+1=p_1^{m_1+2n_1}p_2^{m_2+2n_2}\ldots p_s^{m_s+2n_s}=\left(\prod_i p_i^{m_i}\right)\left(\prod_i p_i^{n_i}\right)^2\] となり、さらに $n_i>0$ のとき常に $m_i>0$ となります(単純に $e_i=m_i+2n_i$, $m_i=0, 1$ とするとこれが成り立たなくなります)。

ここで \[D=\prod_i p_i^{m_i}, y=\prod_i p_i^{n_i}\] とおくと $x^2-Dy^2=1$ かつ $y$ の素因数はすべて $D$ をも割り切ることになります。 よって、先程の結果から、そのような $x$ は正の整数の範囲には、あるとしても1個しかないことがわかります。
また $D$ は $\prod_i p_i^{m_i}, 0\leq m_i\leq 2$ の形の数で、そのような数は有限個しかありませんから、 有限の手続きですべて求めることができることになるわけです。
実際 $D=\prod_i p_i^{m_i}, 0\leq m_i\leq 2$ の形の数は $3^s$ 個ありますが、 $D$ が平方数ならば $x^2-D^2=1$ の解は $(x, y)=(1, 0)$ しかありませんから、 そのようなものを除くと $3^s-2^s$ 個の $D$ について方程式 $x^2-Dy^2=\pm 1$ の最小解を確かめればよいわけです。 各方程式からはあっても1個ずつしか、求める性質を持った解は出てこないわけですから 解の個数は $3^s-2^s$ 個以下であることもわかります。
また、 $p_i$ のひとつが $2$ であるとき $e_i$ は $0$ または $1$ しかとることができず、その場合 確かめるべき方程式の個数は $2\times 3^{s-1}-2^{s-1}$ 個となり、解の個数もそれ以下となります。


たとえば \begin{equation}\label{eq4} 1+x^2=2^e 5^f 13^g \end{equation} の解をすべて求めるには14個の方程式 \[ \begin{split} x^2-2y^2=\pm 1, x^2-5y^2 & =\pm 1, x^2-10y^2=\pm 1, x^2-50y^2=\pm 1,\\ x^2-13y^2=\pm 1, x^2-26y^2 & =\pm 1, x^2-65y^2=\pm 1, x^2-130y^2=\pm 1, x^2-325y^2=\pm 1,\\ x^2-650y^2=\pm 1, x^2-338y^2 & =\pm 1, x^2-845y^2=\pm 1, x^2-1690y^2=\pm 1, x^2-8450y^2=\pm 1 \end{split} \] の最小解をすべて求め、それらを確かめればよいことがわかります。これらの最小解は \[ \begin{split} 1^2-2\times 1^2 & =-1, \\ 2^2-5\times 1^2 & =-1, \\ 3^2-10\times 1^2 & =-1, \\ 7^2-50\times 1^2 & =-1, \\ 18^2-13\times 5^2 & =-1, \\ 5^2-26\times 1^2 & =-1, \\ 8^2-65\times 1^2 & =-1, \\ 57^2-130\times 5^2 & =-1, \\ 18^2-325\times 1^2 & =-1, \\ 51^2-650\times 2^2 & =1, \\ 239^2-338\times 13^2 & =-1, \\ 12238^2-845\times 421^2 & =-1, \\ 27379^2-1690\times 666^2 & =1, \\ 54608393^2-8450\times 594061^2 & =-1 \\ \end{split} \] となります。この中から適合するものは上の9個と11個目ですが (10個目は右辺が $+1$ となっているので適合しません)、5個目と9個目は 同値ですから、 \[ \begin{split} 1+1^2 & =2,\\ 1+2^2 & =5,\\ 1+3^2 & =2\times 5,\\ 1+5^2 & =2\times 13,\\ 1+7^2 & =2\times 5^2,\\ 1+8^2 & =5\times 13,\\ 1+18^2 & =5^2\times 13,\\ 1+57^2 & =2\times 5^3\times 13,\\ 1+239^2 & =2\times 13^4 \end{split} \] の9個の解が得られます。特に $1+239^2=2\times 13^4$ は $1+x^2=2y^4$ の最大の解であると ともに $\eqref{eq4}$ の最大の解でもあるわけです。

1899年の論文

1899年の論文では、1895年に証明した結果の単純な証明を得たと主張しています。 $n\geq 3$ が奇数のとき \[1+x^2=2y^n\] の整数解は $(x, y)=(\pm 1, 1)$ のみである。 ことを再度証明し、さらに Lagrange の全集4巻 p. 394 の結果として \[x^2+1=2y^4\] の解が $(x, y)=(\pm 1, \pm 1), (\pm 239, \pm 13)$ しかないことを主張し、そこから 1895年に証明した結果が得られると主張しています。
ところが Lagrange はこの中の pp. 391-394 で 方程式 \[s^4+8t^4=u^2\] および \[2x^4-y^4=z^2\] を考察し、前者の解 $(s, t, u)=(1, 1, 3)$ から出発して、 \[(x, y, z)=(1, 1, 1), (13, 1, 239), (1525, 1343, 2750257), \ldots\] など、これらの方程式に無限個の整数解が存在することを示していますが、 この方法で得られる解がすべてであること、また、この方法で得られる解で $y=1$ となるものが 他にないことの証明が読み取れず、Størmer による Lagrange の結果の引用には疑問点があります。 おそらく $x^2+1=2y^4$ の完全な解決は先日も触れましたLjunggrenの結果を待たなければならないと思います。

参考文献

あとがき

はじめに書いたとおり、本ページは関西日曜数学友の会第0回でのMachinの公式についての講演にあたって調べましたStørmerの業績について 先日の関西日曜数学友の会にて時間が足りずお話できなかった内容も含めて触れていこうというものですが、 Størmerの業績について詳しく調べた理由は実はもう一つあります。

筆者が最近投稿した論文 Infinitary superperfect numbers の中で $\eqref{eq1}$ の形の方程式を扱う箇所があり、ここでは $1+x^2=2y^4$ に関するLjunggrenの 結果を使ったのですが(実は執筆段階ではLjunggrenの結果を使っていて、その後1897年のStørmerの結果(これは以前から知っていた)が 使えることに気づき投稿段階ではこれを使っていたところ、refereeからLjunggrenの結果を使うよう求められて再度修正)、 その後Størmerの業績について調べたところ、1897年の結果以前の1895年の結果を知り、問題の箇所の議論はこの結果で十分であることに 気付いたのです。

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