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さらば愛の歌
カカシは、薄暗い月明かりの中、夜道を千鳥足で歩いていた。
彼は飲んでいた。
覆面下の素顔は傍目からはわからないが、広島に落とされた原爆のように紅く染まっていた。
風は、夏ゆえの熱風となってカカシの横を通り抜ける。
電信柱にづつかりながら、一路我が家へとカカシは足を進めた。
帰宅路のの途中、「底なし沼」と呼ばれる汚い沼地にさしかかったところで、沼の向こうにカカシは人影を見つけ出した。
もう深夜とも呼べるこの時間、繁華街でもないこの一帯で人影を発見するのは極めて珍しいことであった。
柳の下、二人組みの影が重なる。
思わずカカシは目を凝らした。
それは男同士の密会であった。
好奇心で浮き上がる心を抑えきれず、カカシはすっと気配を消した。
腐ってもエリートの上忍、デバガメには一日の長がある。
幸いか、向こうはこちらに気付いていない。
闇にまぎれて、カカシは目に力をこめた。
暗闇に鳴れた目が、シルエットの輪郭をはっきりと映し出す。
カカシは思わず息をのんだ。
月明かりで照らされた二人組み、一人は脂肪の有り余った大男。
そしてもう一人は・・・。
カカシの同僚、受付所兼アカデミー教師もこなす里の万能忍者。
イルカだった。
薄暗い人気のないうら寂しいしかしやたらと暑い夜道で、果たしてこやつらは何をしているのか。
動揺を必死で押し隠して、カカシは様子を窺った。
暗くてぼんやりする中で、なにやら二人はもみ合っている。
まさか・・・いやまさか・・・。
高鳴る心臓を、カカシは抑えきれなかった。
同性同士のラブシーンなど滅多にお目にかかれるものではない。
もはや、冬眠を明けて、近くの川で腹一杯ニジマスを食べたツキノワグマの腹ほどに好奇心をはち切らせたカカシは、気配を消すのも忘れて、その光景に見入った。
「誰だ!!」
厳しい誰何の声で、カカシははっとなる。
イルカだって同業者、カカシの方が腕上とはいえ、気配も消さず気付かれないわけはない。
嫌な汗が頬を伝う。段々殺気をみなぎらせていく相手に、言い逃れはできないと悟り、カカシは柳の下へ移動した。
「カカシさん!!」
驚くイルカに、カカシは頭を下げた。イルカの隣でデブが目を見開いていた。
「あのーひょっとして、ずっと見ていらしたのですか・・・」
気まずいながらも、カカシは頷いた。デブは更に目を見開く。
静かな沈黙が場を支配する。カカシは更に嫌な汗をかいた。
「あの・・・」
たまりかねたか、イルカが口を開く。
「できればこのことは内密に・・・お願いしたいのですが・・・」
「えっ!!ああはいハイ、そりゃあもちろん・・・」
慌てて反応したカカシだったが、正直なところ言いふらす気は満々だった。
同僚の意外な一面を垣間見る機会を得て、誰かに言わずにいられないのは、人として至極自然な衝動ではないか。
自己正当化しつつ、カカシはイルカの相手の男を窺った。
カカシの二倍はあろうかという、白い細胞に満ちた腕。思わず抱きしめたくなるような身体である。
カカシは何となくイルカの気持ちに同調した。確かに、こんな男なら抱きたくなる気持ちはわかる。男としてこのようなむっちりは捨てがたいであろう。
今まで職場でしか顔を合わせなかったこの男に不思議な好感を覚え、その肩を二三度優しく叩いた。
怪訝な顔をするイルカに、カカシはうんうんと頷いた。
今初めて身近に感じる同僚に新鮮な輝きを見出していた。
「今初めて、あなたを気に入りました。イルカ先生」
カカシは最高の笑顔をイルカに向けた。
「な、何かしましたか?オレ・・・」
「いえね、あなたはなかなか趣味が良い様なので、俺と気が合うんじゃないかな〜と」
疑問の色を濃くするイルカに全く気付かず、カカシは隣のデブに手を差し出した。
{俺はイルカ先生の同僚でカカシといいます。よろしく・・・」
イルカに負けじと困惑気な顔をするデブの手を強引に握って、カカシは微笑んだ。
「あなたを見直しました、イルカ先生。ただのお人よしかとも思っていましたが、その勇気には脱帽です」
笑ったままで、カカシはイルカを眺めた。何故今まで気付かなかったのだろうか。イルカも目を見張るほどの体格をしている。
その美しい筋肉の流れを見ながら、カカシはその抱き心地のことを考えていた。
「俺も仲間に入れてほしいんですが・・・」
その言葉にイルカは素早く反応する。
「仲間!?仲間ってことは、ひょっとしてカカシさんもお困りだったのですか」
お困りとは過剰な表現を、中々直接的なヒトなんだなあ、と思いながら、カカシは頷いた。
「ええ、こういう機会って滅多に巡りあえませんからね。今日ここであなた方にお会いしなければ思いつきもしなかったでしょう」
カカシの言葉を聞き終わって、イルカとデブは顔を見合わせた。その中に喜びの色を見つけ出し、カカシは心から笑った。
「いえ、カカシさんほどの方がまさかお困りだったとは思いもよらなくて・・・そうと知っていればもっと早くお誘いしてたんですがね」
デブも頷く。
「これからですよ、これから」
カカシの朗らかな声でイルカとデブは相好を崩した。初めて見るデブの笑顔、その独特の暑苦しさと見苦しさに、カカシはすでに気付かなかった。
「それじゃあ早速始めましょうか」
イルカが張り切った声を出す。デブもそれに同調するように、準備運動を始めた。
「えっ、ちょっと、ここでするつもりですか・・・」
「当たり前じゃないですか、こんなことで演習場は借りられませんよ」
「でも・・・ホテルとか、誰かの家とかあるじゃないですか・・・」
「そんな狭いところじゃ体動かせませんよ。大丈夫です、バレませんって。現にカカシさんが来るまで誰にも気付かれていないんですから」
誰にも、というところに引っ掛かりを感じないでもないカカシだったが、青姦というのも刺激的だな、と気を取りなおし、デブに倣って準備運動を始めた。
「それでは誰と誰が先にやります?俺達はさっきやったので、カカシさんやりますか?」
カカシは首を振った。
「俺は初心者なので、とりあえず見学してます。お先にどうぞ」
それじゃあ、お言葉に甘えまして、とイルカはデブと向き合った。
そして手を組んだ。
「行きます!!」
暗闇の街並みに、イルカの声が響き渡った。
「!!!!!!!!!!!!!!」
カカシは呆然と、目の前の光景を眺めていた。
中編に続く
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