発泡スチロール

@  1mol
A  6.02×1023
B  水素         2 g
   メタン       16 g
   窒素       28 g
   酸素       32 g
   二酸化炭素  44 g
C  標準状態で
   22.4 g   (裏面)
   
 
『参考書を読む』というテーマで 文化図書部から依頼があり、長年の想いを語った。2002−09
 
 エンジニアだった僕が、ある時を境に教壇に立つことになりました。そして、ここ母校の化学準備室で日々を営むようになってから、もう1年が過ぎました。はるか30数年前、ちょうどこの部屋で、担任の内田先生に進路について相談したことが思い出されます。穏やかな目の恩師が座っておられた席に、いま自分が腰掛けているなんて、不思議なご縁だなあと感じる今日この頃です。
 今回は「参考書を読む」というテーマで文章を書くことになりました。そこで諸君にお勧めしたいのは、僕自身が共感し、影響を受けた一冊、石川正明著『化学の発想法』(駿台文庫)です。

 1.「物の中に物質を意識する力」 
 残念ながら、大半の生徒諸君はこの物質意識が希薄なようです。僕たちの目の前に存在している全ての物には、数量・大きさ・形がありますね。でも、これらはあくまで物体(thing)の特徴に過ぎません。化学の対象となる物質(substance)は、物体を構成している材質そのものを指しています。たとえば、10円玉を手にしたとき、単に硬貨だと認識するだけでなく、”銅”なのだと意識する ─── それが著者の唱える姿勢なのです。

 2.「誰が原子を見たか?」
 約200年前、ドルトンによって革命的な実験事実が発見されました。その結果、人々は<誰にも見えない、感じられない粒子>つまり、原子(atom)の存在を認めざるを得なくなったのです。ここ約2世紀の間に、原子(ミクロな粒子)についての理解がどんどん深まり、それに伴って、化学用語の定義も整理統合されてきました。この本には、そうした経緯が詳しく記されています。

 3.「化学用語の大切さ」
 化学とは古くは中国から、近代にはヨーロッパ・アメリカから輸入された学問です。そのため、化学を日本語だけで理解しようとすると、誤解が生じることが多々あります。化学を根底から理解するには、元素=element、原子=atom、単体=simple substanceというように、英語の用語だけは押さえておくべきでしょう。
 ところで、硫黄という物質を採り上げてみましょう。硫黄とは樹脂光沢を帯びた黄色の固体で、加熱すると、流動的な液体へと簡単に変化します。ここで”硫黄”という単語をよく観察してください。おや?「硫」という漢字の偏と旁、そして「黄」という文字が、硫黄の物性をもれなく表現しているではありませんか!これはまた、硫黄という言葉を僕たち日本人に伝えてくれた、中国文化の懐の深さとも言えるでしょう(中国では一般に「硫●」・「硫」と呼ばれます)。このように本書は、化学用語に含まれた合理性や奥深さをも説き明かしてくれるのです。<注>●は、偏として”石” 旁として”黄”

 4.「物質量」
 物質量(amount of substance)とは、最も重要な化学用語です。それは6.02×1023という”数”に基づいた物理量であり、毎年僕が1年生諸君に繰り返し説明する、あのモル(mol)を単位とします。しかし、日本語の”量”という言葉には、”数”の概念が含まれていません。このため、大勢の生徒が混乱をきたし、頭を悩ませています。明治時代(?)の学者が、”amount of substance”を「物質量」と直訳しなければ、こんなことにはならなかったでしょう。著者によれば、これは本来”粒子の数”と訳すべきだいうことです。こうすると、ずっと分かり易くなりますね。
 数学で扱う量とは違って、自然科学で扱う量はすべて具体的な量であり、必ず単位がつきます。この物理量は更に、質的な物理量と、量的な物理量とに2分することができます。これら2種類の物理量の差異に関する解説や、その後の展開例も、諸君をわくわくさせてくれるでしょう。

 ここで紹介したのは、本書のごく一部に過ぎません。このコンパクトな本(B5版200ページ)を、ぜひ手に取ってみてください。どのページを開いても、「新たな視点の修得・イメージの構築」のスリルが諸君を待ち受けています。
 人間に直に語りかけてくれることのない寡黙な物質たち ─── それがこの本を読むと、物体の奥から、物質のささやきが少しずつ聞こえてくるはずです。さあ、君も物体の内に秘められた物質の世界の扉を開いてみませんか。
 
図書館報に「科学することを志して」を寄稿
2006−03