■ 2004/01/26 デビッド・ケイ元査察団長の発言

またぞろ、朝日に代表されるアメリカ中心のイラク戦争批判勢力が勢いづいています。彼らを勢いづかせる新たな材料が見つかったからです。

朝日は、その材料について昨日の1面のトップニュースと、3面の総合面で大きく取り上げ、今日の「社説」でも取り上げるなどの熱の入れようです。

それでは、ここは朝日にお付き合いをして、今日の鬼の首でも取ったかのような「社説」「イラク戦争 脅威が幻だったのなら」を以下にご紹介させていただくことにしましょう。

米英両国がイラクに軍事侵攻するにあたって掲げた第一の理由は、イラクが隠し持っている大量破壊兵器(WMD)を見つけ出し、廃棄することだった。国連の査察では差し迫った脅威であるこれら兵器の隠匿を暴けないとして、明確な国連安保理決議がないまま戦争に踏み切った。

ところが、全土を占領してから9カ月の間、各地を探しても、核兵器も生物化学兵器も発見されない。化学兵器が使われた80年代のイラン・イラク戦争の遺物と思われる朽ちた砲弾が確認されたくらいだ。

脅威は幻だったのではないか。世界がそうした疑問を深めるなかで、ついにと言うべきか、ブッシュ米政権内部からも本音と思われる告白が飛び出した。

イラクのWMD調査団長を辞任したデビッド・ケイ氏が、開戦の段階でイラクに生物化学兵器の備蓄があったとは思えないと語ったのだ。核兵器も開発の初期で、ブッシュ政権による当時の脅威の主張が見当違いだったことを強く示唆している。

この発言について記者団に問われたパウエル国務長官も、イラクがWMDを実際に保有していたかどうかは「未決着の問題」と述べた。開戦直前の安保理で衛星写真や通信傍受記録を示し、脅威の存在を声高に訴えたあのパウエル氏がである。

イラクを独裁の恐怖から解放し、将来の脅威の芽を摘んだだけでも戦争は正当だった。ブッシュ大統領もブレア英首相もそう主張し、復興に目を向けようと言う。

しかし、国際秩序の土台である国連憲章は、明らかに自衛の場合か、安保理が承認した場合にしか戦争を認めていない。大義を後付けして、あの戦争が正しかったか否かをあいまいにすることは、国際社会のためにも米国のためにもならない。

米政府は調査を続けるというが、米英が恐れたような大量のWMDが見つかる公算はきわめて小さいと考えざるを得ない。

米英首脳がなぜ誤った情報や分析に踊らされたのか。湾岸戦争以来の宿願であるフセイン政権の打倒が先にありきで、WMD問題はそのための方便だったのではないか。米英両政府は真相を調べあげ、包み隠さず国際社会に説明する責任がある。そうでないと、開戦をめぐって分裂した世界が戦後のイラク復興で足並みをそろえられない現状が、いつまでも続くことになる。

先制攻撃を組み込んだブッシュ戦略に対する国際社会の警戒や不信も深まりこそすれ、和らぐことはあるまい。

小泉首相にとっても、深刻な問いかけのはずである。「WMDはいずれ見つかる」とは最近さすがに語らなくなったが、戦争への支持を言い、きょうにも占領下のイラクへ陸上自衛隊本隊の派遣命令を出す。

戦争の大義をめぐって米国自身さえ大揺れのいま、日本はそんな論議は知らぬげに、あの戦争は正しかったの一辺倒で突き進んでいいのだろうか。


朝日新聞が置かれた現在の心境を勝手に推測しますと、以前であれば、朝日の発言力は現在とは比べようもないほどに巨大もので、社会党時代の土井党首ではありませんが、朝日が「ダメなものはダメ!」というだけで世論を朝日有利に動かすこともできました。

しかし、ネットの発達もそのことに少なからず貢献しているのか、朝日の影響力は急速に衰えています。

イラク戦争を巡っても、朝日はアメリカ憎しの感情からの逆さ思考で是非を論じ(※つまりは、「朝日の憎むアメリカが起こす戦争なのだから間違っているはずだ」という論理です。思考経路が逆転しているのです)、一貫してアメリカのイラク戦争開戦には大義(人の行うべき重大な道義。特に、主君や国に対してなすべき道=広辞苑)がないといい続けてきました。そして、そんな“大義なき戦争”に日本が関わることを徹頭徹尾牽制してきました。

少し前までであれば、そうした朝日の主張は時の政権や国民意識を大きく揺さぶり、朝日の思うがままに進めることが現在よりも可能でした。しかし、今も書きましたように、現在では現実が朝日の思惑とは逆に動くことの方が圧倒的に多くなっています。イラク戦争においても、日本政府はアメリカの立場を早い段階から積極的に支持し、一応の戦争状態が終わった今、日本の自衛隊が人道復興支援のために本格的に動き出そうとしています。

そうした事態を、朝日として面白く思っているはずはありません。つまりは、朝日は今、極度のフラストレーションの状態に置かれているものと思われます。

そんな朝日のフラストレーションを打破してくれるような“事実”が、デビッド・ケイなる人物から明らかにされたわけで、朝日は「待ってました!」とばかりに飛びついたというわけです。

で、このデビッド・ケイというのはいかなる人物なのかといえば、湾岸戦争(1990年8月のイラクのクウェート侵攻に端を発し、翌年1月から約40日間、イラク軍と米軍中心の多国籍軍との間で行われた戦争。イラクの敗北で停戦=広辞苑)後からIAEA(International Atomic Energy Agency=国際原子力機関)や国連による核査察を行う調査チームの団長を務め、昨年の6月から今年の1月まではイラクの大量破壊兵器の有無を調査するチームの団長(CIA特別顧問)を務めていた人物だそうです。

つまりは、アメリカが威信をかけてイラクで行った大量破壊兵器捜索の責任者をも務めていたことになるわけですが、そのケイ氏の口から、「イラクに、戦争の大義とされるような大量破壊兵器があったとは思わない」との発言が飛び出したというのです。

以下は、昨日の朝日新聞に掲載された同社ワシントン総局が伝える、ロイター通信(ドイツ人ロイター〔P. J. von Reuter(1816-1899)〕が設立した通信社。1849年アーヘンに創立、51年ロンドンに移し、ニュースの供給を開始。全世界に通信網を持つ。ルーター。ロイテル=広辞苑)が行った同氏へのインタビューです(※太字部分がケイ氏の発言)。

備蓄されていたはずの生物・化学兵器はどうなったのか?

あったとは思わない。湾岸戦争終了時には備蓄されていたが、国連の査察とイラクの自主的措置で廃棄されたと思う。一番の証拠は、イラクが大規模な生産を再開しなかったことだ。それも、1995年以降の話だ。イラクは1990年代半ばに生産を再開したと見られていた。

核兵器計画は?

初期的なものだ。休止状態とはいえないが、重要なことは再開していなかった。

捜索活動の結果、備蓄はないと信ずるに至ったということか?

その通りだ。

それは聞き取りと文書に基づくのか?

聞き取り、文書、実地調査だ。大規模な兵器生産があったという物的証拠は見つからなかった。

イラク側が破壊したのか?

いや。もともと存在しなかったと思う。

1980年代には実際に使ったのでは?

兵器はあった。イランとの戦争でも使った。だが、今問題になっているのは、湾岸戦争終了後に生産されたものだ。1990年代には大規模な生産はなかったと思う。

以上が、朝日の紙面に載ったケイなる人物のインタビューですが、しかし、どうなんでしょうか。肝心な部分の答えが「思う」「思わない」という表現になっているのが気になります。

それより何より常識的に考えて、イラン・イラク戦争(1980年から1988年にわたるイラン・イラク間の戦争。イラクがイラン国内に侵入して開戦。両国の国境紛争であるとともに、イラン革命への介入という側面があった=広辞苑)の際、イラクが国内の反政府的クルド人制圧目的のために化学兵器を実際に使用しており、絶大な効果があることを体験的に知っていながら、それを自ら手放すことなどあり得るのでしょうか。

仮の話、現在、北朝鮮は日本やアメリカと交渉を持とうと考えているわけですが、少しでも自国有利に交渉を進めようということからか、核原子炉の運転再開や核兵器保有をちらつかせています。万が一、北朝鮮がそれらを自ら手放した場合、いかなる不利益をこうむるかは容易に想像できるでしょう。同じ理由で、同様の立場にあったイラクが、自らそうした武力放棄ともいえる行動に出たとは考えにくいと思うのです。で、もしもそうであるとすれば、通常兵器だけで大国アメリカに対していたことになりますが、おそらく真実はそうではないでしょう。

ならば、どうしてイラク国内から大量破壊兵器が見つからないのかですが、これはあくまでも一つの仮定ですが、査察のためにイラク国内に入っていた査察団によって発見されることを恐れたフセイン元大統領の指示で、発見される前に他国へ移動してしまったから、という想像はできないでしょうか?

事実、今日の朝日新聞には、それを裏付けるような、ロンドン支局の福田伸生記者の記事が掲載されています。書かれている内容は、2日がかりで大々的に報じられたケイ氏の「大量破壊兵器はなかった」とする報道に匹敵するものですが、なぜか、扱いは非常に小さく(3百字程度)、うっかりすると見過ごしてしまうほどの粗末な扱いです。

そこには「兵器関連資材シリアに移送 英紙へケイ氏語る」の見出しの下、今回話題にしているデビッド・ケイ氏が25日付のイギリスの新聞「サンデー・テレグラフ」に語った発言が掲載されています。

それによれば、米英による攻撃が始まる直前、「兵器関連の資材がイラクからシリアへ移された証拠がある」とのことです。以下は、ケイ氏の発言です。

フセイン政権関係者からの聴取で、多量の原材料がシリア(Syria:西アジアの地中海に面するアラブ共和国。フランス委任統治領から1946年独立。面積18万5千平方キロメートル。人口1431面〔1995年時点〕。首都ダマスカス=広辞苑)へ運ばれたことがわかった。大量破壊兵器計画の構成要素を含むものだ。(具体的な内容については)今後、解明する必要がある。

私自身は国際政治に関しては至ってうといため、イラクとシリアが過去・現在どの程度の関係にあり、あったのかは知らないのですがf(^_^;)、イラク戦争が始まる前にも「大量破壊兵器は既にシリアなどの第三国に運び出されてしまっているのではないか?」といった指摘があったことを記憶しています。

以上、本日は、大量破壊兵器の存在を証明するに当たって鍵を握ると思われるデビッド・ケイ氏の「二つの証言」をご紹介してみました。朝日は、「イラク国内には大量破壊兵器はなかった」という“証言”にだけ目もくらむほど強烈なスポット・ライトを当てています。そのため、イギリスの新聞に載った同氏のもう一つの発言は陰に回った形になってしまっています。残念なことです。で、結局今のところは、「イラク国内ではこれまでのところ発見できなかった」ということでしかないわけで、この問題に決着がついたと結論を出すのは早すぎると思います(朝日としてはそうしたいのかもしれませんが)。

朝日は日頃から、日本政府が決定したことについては、「まだ十分な議論や説明がなされていない」と批判しておきながら、今回の元査察団長の発言には、蝿取り紙に自ら飛びつく蝿の如く、一もにもなく(とやかくいうまでもなく。即座に=広辞苑)飛びついてしまっています。そして、はなからはそれに疑いを持たずに信じ込み、「これが真相である。答えが出た」かの如き書き方をしているのはなぜなんでしょうか? 報道機関である以上、この発言の信憑しんぴょう性を疑うぐらいの用心深さがあって然るべきだと思うのですが。

一般的な考え方として、ある組織に属していた人間がその組織から不本意ながら離れた場合、自らが属していたかつての組織を批判することはよくあることのようですよ。最近の日本の例でも、外務省を辞めた外交官が日本の外務省批判を本に著していましたでしょう。他にも、元共産党員が共産党を除名されると、反共産党的な思想を持つようになるというのはよく聞く話です。

【本日の豆知識】:オウム真理教事件で名前を広く知られるようになったジャーナリストの有田芳生(ありた・よしふ)さんは、その昔、共産党員だった時代があるそうです。何でも、彼は熱心な共産党員の両親に育てられたのだそうで、自然の成り行きとして、何の疑いも持たずに彼自身も日本共産党の党員になったそうです。しかし、機関紙作りを巡ってでしたか、党本部といさかいを起こし、それが原因となって除名されています。その有田さんは現在、共産党を敵視されているとのことでした。

今回の問題に絡めて「大義」そのものについても書こうと思いましたが、これ以上長くなっても何ですので、その問題は次の機会に譲ることにします。