<フォトエッセイ> ワンコと登った雨の生藤山 2000.5.13
鎌沢から登里の登山口
 2000年5月13日(土)。陣馬山から見るたびに、いつか登りたいなあと思っていた生藤山と、包容力を感じる大きな山容が美しい連行峰。念願かない4月29日に初めて生藤山に登りました。
 今回は二度目の生藤山です。ゴールデンウィークの大混雑も一段落、天気予報に傘マークがついていたこともあり、中高年の登山者で溢れる中央線もずいぶんとすいていました。

●陣馬から見る登里の登山口(左の白い点)と佐野川峠の尾根。
 藤野駅発和田行き9時5分発の神奈中バスに乗り、鎌沢入り口で下車。降りたのはわが家の4人と、50代ぐらいの女性が二人だけ。女性二人は先に出発しました。わが家も遅れて出発。8時30分頃です。気温は20度ぐらいでしょうか。一面の曇り空ですが大雨にはならないと判断しました。
 鎌沢のバス停を降りると、沢井川を渡るために一度下の橋まで下り、鎌沢まで舗装路をかなり登らなければなりません。実は、すぐ先の終点の和田まで行って、やさか茶屋の横を通って鎌沢へ行った方が、高低差が少なく楽なのですが、このときはそのコースを知りませんでした。
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 鎌沢のコンクリートの舗装路は、かなりの急坂で応えます。連行沢の猿よけのネットが張られた畑に沿って登っていくと、正面に連行峰が見えてきます。上の方は雲に覆われていて見えません。たぶんあの中は雨でしょう。右側に10台ほど止められる県営の無料駐車場がありました。その先を左に折れ、集落の間を登っていくと、突然、右側の家からビーグル犬が飛び出してきました。そして私たちの先にたって、案内するように歩き出しました。
 実はわが家は、猫好きです。犬は嫌いではありませんが、飼い主の躾次第で危険な犬もいるので、初対面の犬には気をつけるように子供たちにも言ってあります。次男に言わせると「良い犬は、いい目をしている。悪い犬は腐った目をしているからすぐ分かる」ということらしい。
 茶畑沿いの急な道を登っていくと石垣の上に集会所がありました。昭文社の登山地図では、休憩所の下で右に急に曲がっています。見ると舗装してなくいかにも登山道のようです。ちょっと迷いましたが右に登りました。20mほど登り振り返ると、さっきのワンコが、舗装路を登っていきます。やがて我々がいないことに気が付くと振り返り、首を傾げています。「どこへ行くんだ? 生藤山へ登るんじゃないのか」という表情をしています。
 すぐに私たちも間違いに気付きました。戻ると、「なっ!だからボクに付いてくればいいんだよ」とでも言いたげです。やがて、納得した表情をして先を歩き始めました。下を見ると中年の男性が二人登ってきます。
 坂の途中に水飲み場がありました。するとどこからか蛙の鳴き声がします。でも崖のどこをさがしても蛙は見あたりません。おかしいなあと、よくよく耳を澄ますと、どうやら蛙の正体は、わき出る水のようなのです。水が出るときに蛙の鳴き声のような音を出していたのです。子供たちと大笑いしました。

●雨に煙る茅丸の頂上。
 そんなことも、「なにやってんだか」とワンコは取り合わず。「早く登ろうぜ、生藤山」という感じです。
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 ここが地図の急に曲がるところかと思われるカーブを右に曲がると、登山口にあたる登里の小さな集落が見えてきました。左手の茶畑の中に小さな四阿のある休憩所が見えます。この時ぽつぽつと小雨が降り始めました。
 登山口の立派な記念碑の前に、先に出発した女性たちがいて、おじさんと話をしていました。降り出した雨を気にしているようです。どうやら私たちと同じく陣馬山まで行くらしいのですが、初めてらしいのです。
 「陣馬山はどっちですか?」とひとりの女性が聞きました。おじさんは陣馬山を指さしました。それは、彼女たちの真後ろ、谷の反対側にそびえています。彼女たちは振り向き、「げっ!うそ!」という表情をしていました。
 無理もないことです。これから登ろうとする山の反対側に目的地があるのですから。地図を見ると、ちょうどハート型に回ってくる感じで理解できるのですが、地図が無いと、どうやってあの反対側の陣馬山まで行けるんだと不安になるのも分かります。彼女たちは戻っていきました。
 里山でも地図は必ず持ちましょうね。山容とコースの全容を、きちんとイメージできるように学習していきましょう。里山では、25000分の1の地図も必要です。私は国土地理院のサイトからダウンロードしてプリントアウトし、持っていきます。
 私たちは登ることにしました。連行峰には雨雲がかかっていましたが、空全体を覆う雲はかなり高く、豪雨になるような雨雲ではありません。竹林沿いの細い登山道を登っていくと、下の家の鎖につながれた犬がビーグル犬に向かって激しく吠えていました。自由なワンコは、「来れるもんなら来てみろ、バ〜カ」という表情をしていました。
佐野川休憩所から生藤山
 竹林を抜け少し登ると、木のベンチのある佐野川の分岐に出ました。南を見ると眼下には、沢井あたりの集落が見えました。晴れていれば、富士山や丹沢山系がきれいに見えるのでしょう。それは次の楽しみにとっておくことにしましょう。

●山の神への新緑の尾根。
 照葉樹林のなだらかな道を進むと、やがて暗い杉林に入ります。ワンコは私たちの前を行ったり、藪に入ったりしています。やがて登山道は、杉林の中をジグザグに急登する道へと変わりました。喘ぎながら登る私を後目に、子供たちとワンコは軽快に登っていきます。
 やっと尾根に着くと、鳥居と小さな社が見えてきました。後で分かったことですが、それはこの先の三国山の麓にある、日本武尊を奉った軍刀利神社の分社でした。ここで次男がお腹がすいたというので、おにぎりを食べさせました。もちろん小雨が降っているので立ったままです。
 分社の横を抜け、紫陽花の登山道を登っていくと佐野川峠の分岐に着きました。9時30分頃です。鎌沢のバス停を出発してから、約1時間かかりました。この分岐を下ると石楯尾神社で、上野原行きのバス停があります。
 それほどきつい登りもない尾根道を30分ほど歩くと、木のテーブルとベンチがたくさんある甘草水に着きました。日本武尊に由来するわき水がすぐ近くにあります。ここ甘草水は桜の季節には、山桜目当ての花見客で賑わいます。この山桜というのがくせ者なのです。ソメイヨシノはハイブリッドなので、同じ場所にある桜は必ず同じ日に咲きますが、山桜はバラバラで、一斉に咲くことはありません。
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 この甘草水の手前あたりから、雨がずいぶんと強くなってきました。麓から見えた、頂上付近を覆っていた雨雲の中に入ったようです。思ったよりも強い雨に、子供たちもちょっと不安そうな表情。しかし、このコースは4月29日に逆に歩いたばかりなので、雨で危険なところは分かっていました。ただ、子供たちの意見、特に最年少の保育園年長組の次男の意見を聞いておく必要がありました。途中でぐずられても困りますし。
 「どうする? 生藤山は、向こう側の下りが崖だから今日は巻き道を行く。その代わり、茅丸は登ろう。たぶん連行峰を下れば雨は止んでいると思う。無理だと思うなら引き返そう。どうする?」
 彼は即座に「行く」と言いました。雨で気温が急激に下がれば別ですが、気温はほとんど変わらず、むしろ下の蒸し暑さに比べて気持ちがいいほどでした。結局、行くことにしました。
 ワンコ? わが家のこの家族会議の最中にどこかへ姿を消してしまいました。きっとここまでがワンコのテリトリーなんだろう。雨も強くなったし、家に帰ったのだろうと思いました。
 ここから三国山を経て生藤山まではもうすぐです。軍刀利神社への分岐を過ぎ、三国山まであと少しのところで、霧の中から二人の登山者が現れました。まさかこんな雨の日に先に登った人がいるとは思わなかったので、ちょっとびっくりしました。お爺さんと小学校6年生ぐらいのかわいい女の子です。こんにちはと言ってすれ違いましたが、ずいぶんと早く登り始めたようです。
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 三国山と生藤山は巻き道を使うことにしました。三国山は、それこそ晴れていれば富士山から道志の山々、雨降山から権現山、笹尾根から三頭山と、すばらしい展望なのですが、今日の雨ではそれも望めません。そして、生藤山は、短いけれども滑りそうな急な岩場があるのでパスしました。そして生藤山の巻き道でのことです。
 雨の中から5、6人の登山者が現れました。こんな雨の中を、小さな子供が歩いているのにちょっと驚いたようでしたが、その中のあるおばさんの一言に私たちの方が驚かされました。
「まあ、ワンちゃんも一緒に!」
「え!?」わが家は全員びっくりして振り返りました。なんと30分以上前に甘草水で消えた、あのワンコがつぶらな目をしてちょこんとそこにいたのです。ワンコは私たちの周りを回りながら、「いやーごめんごめん、ちょっとかわいい狸がいたもんで寄り道しちゃってさあ」とでも言いたげでした。どこをどう通ってきたのでしょう。途中では微塵も気配を感じませんでした。
「どこ行ってたんだろう」
「陣馬山までついてくるのかなあ」と、子供たちもあきれています。
ところがこの後すぐに気まぐれなワンコは、またいなくなりました。(飼い犬はちゃんと繋いでおきましょうね)
 登山道の脇にひっそりとカタクリの花が咲いていました。
生藤山から連行峰、山の神、和田峠、陣馬山へ

●醍醐丸へ、雨雲の中から抜け出た。
 私たちはこのコースの最高峰、茅丸(1019m)に登りました。登りも下りも丸太の階段で、雨でも安心して登ることが出来ます。
 アセビの生い茂る茅丸の頂上は、木で展望がほとんど無いので人気がもうひとつ。巻き道を使ってパスする人が多いのですが、スズランのような白いアセビのかわいい花が満開になる5月と、木々の葉が落ちて見晴らしが良くなる冬は、ぜひ登って欲しい山です。
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 茅丸の頂上で休んでいると、鎌沢で見かけた男性二人が登ってきました。
「速いですねえ。もっと早く追いつくかと思ったら、ぜんぜん追いつかなかった。下の方で右の方へ行きましたよねえ?」
「ああ、初めてなんで道を間違えたんですよ」
 おじさん達は、すぐに下っていきました。私たちはおやつタイムでしばらく休むことにしました。茅丸を過ぎると、ほどなく連行峰の西にある、馬の背のような広々とした雑木林になりました。新緑が雨に濡れて黄緑色につやつやと輝いていました。遠望がきかないぶん近くの緑が映えています。晴れの日の登山では決して見ることの出来ない美しい風景です。私たちは通り過ぎるのを惜しむようにゆっくりと歩きました。

●陣馬山頂上でほっと一息。疲れた…。
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 丸太の階段を登りきると連行峰です。11時頃でしょうか。連行峰から50mぐらい先の東連行峰の木の下で、早いお昼にすることにしました。といってもこの雨。座ることもできないので立ったままでおにぎりとマルコメのみそ汁で昼食。雨は相変わらず降り続いています。晴れていれば正面、直線距離で3キロ先に陣馬山が見えるのですが、この雨。なんにも見えませんでした。
 15分ほどで出発。これから山の神まではずっと下りです。山の神まで下れば雨はきっと止んでいるでしょう。さっきのワンコがついてきていないかなあと時々振り返りますしたが、まったく姿が見えません。やっとお家に帰ったのかなあと子供たち。気になるようです。
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 30分足らずで山の神。予想したとおり雨は止んでいます。雨雲の中から抜けました。大ゾウリ山を越え、醍醐丸への道を急ぎましたが、醍醐丸は巻き道を使ってパスすることにしました。ところが、この巻き道は暗い針葉樹林の斜面につけられた細い道。結構さみしい辛抱の歩きとなりました。ただ唯一心を和ませたのは、時折聞こえる「ポッポー」というパートナーを求めて鳴くアオバズクの声。
 高岩山を巻き、小さな祠で登山の無事をお参りして、杉林の中をジグザグに下ると林道醍醐線に出ました。100mほど歩くと和田峠です。藤野町の和田と八王子市の夕焼け小焼けの歌で有名な恩方を結ぶ林道が通っています。茶店もあるのですが閉まっていました。駐車場にも車が2、3台あるだけです。
 連行峰からはゆっくり2時間ぐらいです。あとは陣馬山までの登り、30分のがんばりです。和田峠から陣馬山までは、林道を行く、どちらかといえばなだらかなコースと、階段の多い急なコースと二つあります。どちらも山頂までは30分ほどです。
 今回は茶店左側の林道ではなく、階段の道を行くことにしました。さすがにこれはきつかった。5時間以上歩いた後ですからね。それに階段の土がえぐれていて歩きにくいんです。もういい!というころに、頂上の芝生が見えてきました。1時30分です。鎌沢のバス停から5時間30分。その内2時間が雨の中でした。そして、1時間がワンコと一緒でした。
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 頂上に立つ白馬の像の下で一休み。やはり雨模様なので登山者はわずかでした。さすがにみんなに疲れが見えます。陣馬山頂からは、今まで歩いてきたコースが見通せました。登里の登山口、甘草水、三国山、生藤山、茅丸、連行峰、山の神、大ゾウリ山、醍醐丸。連行山には、まだ雨雲がかかっています。
 「よく歩いたね」年長組の次男に言うと、「お腹がすいた」ということです。
 頂上下に西側にせり出した清水茶屋に寄ることにしました。
 清水茶屋に行くとおじさんが出てきました。どこを歩いてきたのと言われたので、今日のコースを説明しました。
「へー、雨の中よく歩いたね」とほめられた子供たち。でも、お腹がすいてそれどころではなさそう。おでんと山菜うどんを注文しました。私はもちろん冷えたビールです。

●陣馬山の清水茶屋から見る三国山、生藤山、茅丸、連行峰。写真をクリックすると大きくなります。
 連行峰側にせりだした見晴らしと風通しの良いデッキでのむビールは最高でした。清水茶屋では季節によって山で採れた山菜などをサービスで出してくれます。今日は何が出るかなと、それも楽しみのひとつです。春の筍、ワラビにノビル、秋のキノコ、山栗、冬の手作り蒟蒻。
 また、秋になるといりこ出汁のきいたけんちん汁もあります。5月の連休まで楽しめます。わが家のお気に入りの一品です。
和田へ

●和田への途中から山の神を見る。
 30分ほどで頂上を後にして、一の尾根を下り始めました。10分ほどの急な下りを降りきると、すぐに和田への分岐があります。右の照葉樹林の中へゆるやかな登山道が続いています。時々すらっとしたホウの木も見られます。
 歩くにつれ、時折樹間から見える連行峰の山並みが高くなっていきます。
 雨が降ったので、登山道にたくさんのアズマヒキガエルが出ていました。踏まないように歩きます。30分ほどで和田の集落が見えてきました。
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 それが藤野の町名の由来なのでしょう野生の藤の花が満開でした。藤紫の花が、雨に濡れてつやつやと艶やかでした。藤棚の整えられた藤の花もいいのですが、里山に放り投げられたように咲く藤の花もいいものです。
 陣馬街道に出ると神奈川県立陣馬自然公園センターまでは集落の中を下って10分ほどです。センターにつくと、そこのおばさんが迎えてくれました。
 このセンターには、立体地図や、この辺りの動植物の写真やイラストがあって、子供たちが好きなところです。子供たちは、立体地図のルートの電球をつけながら今日歩いたところをたどっていました。
 しばらく休憩してバスの出発時間となりました。藤の花が咲く林間をバスは下っていきます。雨の登山も悪くないなと思いながら、思わずうとうととしてしまいました。

●山の神をバックに。もうすぐ和田。 

●満開の藤の花。クリックで拡大。 

●今回のコースです。JR藤野駅からバスで鎌沢入り口。帰りは和田からバスで藤野駅へ。
MORI MORI KIDS ■MORI MORI KIDS Nature Photograph GalleryI ■CAPINO CAPINO(C) in Tokyo Japan since 08.04.2003
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