青かった。青い色以外、目に入るものは何もなかった。私は一瞬、自分が海の中にいるものと思ってしまう。目の前を七色に輝く透明な魚がゆらゆらと泳いでいったような気がした。けれども、私はすぐに自分が長距離バスのシートに埋もれていることに気がつく。こわばった体をギシギシいわせながら体の形にへこんだシートから上半身を引きはがす。
「真っ赤だ」
私は思わずつぶやいた。
朝日をあびて、薔薇の花びらを一面に敷きつめたように赤く錆色に輝く平らな大地が、見渡すかぎりどこまでも続いていた。そして、その大地は空と交わる地平線のあたりで、地球の丸さに逆らうかのようにクイッとささくれだっていた。私の経験の中にはない、あまりに単純で抽象的な風景のために距離感がつかめない。そのため、そのささくれが単なる丘の連なり程度のものなのか、それとも山脈なのかまったく見当がつかなかった。
私の目の前の風景は、上半分が一片の雲一つない完璧な青空、下半分が限りなく広がる赤い大地、その二つだけでできていた。赤い大地には木はおろかひとつかみの草さえも見ることができなかった。かといって、まるで意志を持った生物のように動き続ける砂丘が連なる砂漠の風景とも、それはまったく異なるものだった。赤い大地は、巨大なブルドーザーで削り取ったようにまっ平らで、人工的な匂いすらした。そして、その表面は固い岩盤のようではなく、わずかな柔らかさを感じさせた。表面は細かい砂で覆われているのかもしれないと私は思った。
溶けかかった時計、燃えるキリン、引き出しのついた貴婦人の像、そんなものがあっても不思議には思えないほどシュールな風景だった。しかし、そのようなものがなくても、喪失感など感じさせない充実した力に満ちた風景だった。その横図は上質の抽象画を見るのにも似た緊張を秘めていた。
私は自分が長距離バスに乗っていることも忘れるほどに、その風景に魅せられていた。
意識も視覚もはっきりしているのに、私は夢を見ていた。熱い一陣の風が突然吹き、赤い砂塵が空に舞う。砂塵は大気を含んで薔薇の花びらに姿を変える。空は花びらで埋まる。青い空は紫色になり、やがて深紅に染まる。ここの大地が赤いのは、失われた幾百万の先住民と、遠くアフリカから連れてこられ、この地で息絶えた多くの奴隷たちの血がしみ込んでいるからだ。それがブラジルという国名の由来となった赤い染料を採るために伐採され尽くしたというパオ・ブラジルの樹も、その血を吸いあげてより赤く染まったのだ。 |