レシーフェから車で20分。海岸から続く丘の上に、ユネスコの世界遺産に指定されたその街はある。ブラジルが誇る古都オリンダは、椰子の木と色とりどりの花に埋もれたオランダ風のコロニアル建築の並ぶ美しい街だった。
あいにくの小雨混じりの天気で、厚い雲が低く垂れ込めていた。私を乗せたタクシーは、町の入り口にある海岸べりの小さな広場に滑り込んだ。タクシーを降り立った私はあまりの静けさに、しばらくの間呆然としてその場にたたずんでいた。さっきまでいたレシーフェの、1秒たりとも気を抜けない危険をはらんだ喧騒との落差に、張りつめていた神経が一瞬のうちに弛緩してしまうようだった。
そのとき一人の少年が近づいてきた。彼は学校の制服だろうと思われるロゴの入った清潔な白いTシャツを着て白いショートパンツをはき、こぎれいなスニーカーを履いていた。きれいに撫でつけられた髪と利発そうな目が印象的だった。
「こんにちはセニョール、オリンダヘようこそ。ところで、ギア(ガイド)はいかがですか」
そういうことか、なるほどと、私は彼にかまわず歩き始めた。この町は一人きりで誰にもじやまされずに静かに歩きたいと思っていた。せっかくレシーフェの喧騒から逃れて来たのに冗談じゃない。レシーフェのホテルでオリンダの観光地図だってもらってきた。ガイドなんかいらない。
私はかまわずにどんどん歩いた。が、彼も負けてはいなかった。私にぴたりと寄り添い胸のポケットから何やら身分証明書のようなものを出し、ほら見てよセニョール。本物のギアの証明書だよ。これを取るのは大変なんだ、すごく難しいんだなどとまくしたてる。ヘーどれどれなどと、つい立ち止まって見ると、写真付きの立派なものでオリンダのガイドと大きく書いてあり、なにやらごたいそうなものだ。彼は胸を張って得意気だ。名前はルイス。14歳。 |